コールプットパリティ(プットコールパリティ)の意味、計算式をできるだけ丁寧に解説する。

 

コールプットパリティ(プットコールパリティ)の意味、計算式をできるだけ丁寧に解説する。

こんにちは、orcaです。この記事では金融工学、数理ファイナンス、デリバティブの基本となるコールプットパリティ(プットコールパリティ)の意味、計算式をできるだけ丁寧に解説しようと思います。自分ではなかなか理解できなかったので備忘録も兼ねています。記事の内容に誤りがあればお知らせください。

1.目指すゴールと方針

 まずは示すべき式を理解します。今回考える式はC_tを時点t(ただし、0≦t≦T)における満期がTであるようなコールオプション(買う権利)の価格、同様に満期がTであるようなP_tを時点tにおけるプットオプション(売る権利)の価格、Kを権利行使価格(プット、コールオプション両方の権利行使価格)、S_tを時点tにおける株価(取引の対象は株でなくてもよいですが今回は株にします)、ρを無リスク利子率とします。なお、このオプションは満期時にのみ権利を行使するか選べるヨーロピアンタイプ・オプションです。

 このとき、

  C_t-P_t=S_t-  \frac{K}{(1+ρ)^(T-t)} (←すごくわかりにくいですが右辺第二項の分母(1+ρ)^(T-t)は(1+ρ)の(T-t)乗です。以下同様)が成り立つ。

これをプットコールパリティ(コールプットパリティ)と言います。

 この式は何を意味するのでしょうか。左辺の意味は容易です。これは単に時点tでのコールオプションプットオプションの価格差です。

 右辺の意味は少し複雑です。第一項S_tは時点tでの株価です。第二項  \frac{K}{(1+ρ)^(T-t)}はオプションの行使価格Kがリスクフリーレートρで割り引かれています。この等式が0≦t≦Tを満たす任意のtで成立することがコールプットパリティ(プットコールパリティ)です。なぜこれらが等号で結ばれるのでしょうか。

 証明の方針としては背理法です。もし、これらが不等号(向きは問わない)で結ばれると何が起きるのでしょうか。詳細は後述しますが、結果として「裁定取引(さや取引)」という全くの無リスク、無資本で利益を無限に得られる取引が可能となります。これらは完全市場における前提条件である無裁定と矛盾しますから、不等号はありえない、すなわち上の式が証明されます。なお、以下では証明を簡略化するため、はじめはリスクフリーレートであるρを0として証明を進めます(ρ≠の場合ももちろん後で示します)。

2.ρ=0のときの証明

C_t-P_tS_t- \frac{K}{(1+ρ)^(T-t)}とします。ρ=0より、

C_t-P_tS_t-K  です。

すなわち、C_t-P_t>S_t-K (1) または

 C_t-P_t<S_t-K (2) です。

時点Tを考えます。S_T>[K]とS_T≦[K]の2つの場合で考えます

(ⅰ).S_T>Kのとき

 行使価格Kより株価S_Tが高いのでプットオプション(売る権利)の価格P_T=0です(わざわざ市場価格(S_T)より安い価格(K)で株を売るなんて人はいないですよね。したがってプットオプションの価格は0です)。つまり(1)式は、

C_T>S_T-K  と書き直せます。

 このとき、裁定取引が可能となります。具体的にはコールオプション(買う権利)を価格C_Tで大量に書いて売ります。つまり、行使価格Kで株を売る義務を負います。現在株価はS_T(>K)(仮定より)ですから、このオプションを買った人は必ず権利を行使します。オプションを売った人はそれに対して、なんと市場価格S_Tで買った株をKで売却しなければなりません(S_T>Kなのでこの取引だけ見れば損しかしていません!)。しかし全く問題ありません、オプションを売った人は先にC_Tを手に入れているからです。

 少し整理してみます。オプションを売った人の収支は

[収入]:C_T+K (オプション価格+権利行使者の買値)

[支出]:S_T (権利者に売るための株の調達) です。

 この収支は黒字です。なぜなら仮定より、C_T>S_T-K すなわち、

[収入]-[支出]=C_T+K-S_T>0だからです。

 このようにしてオプションを売った人は全くの無リスクで利益を上げることができます。これは裁定取引にほかなりませんから、S_T>Kのときは

C_T-P_T>S_T-K はありえません。

 同様に(2)式もあり得ないことが示せます。不等号が≦でないことに注意してください。もしC_T-P_T<S_T-Kがありえるのなら、その時はコールオプションを大量に購入することで先ほどと同様に裁定取引が可能となります。具体的にはC_T+Kで株を購入し、市場価格[S_T]で売却できるためその差額で利益を上げることができます。不等号の>、<のどちらも裁定取引を可能とするためこれを防ぐためには少なくともS_T>KのときはC_T-P_T=S_T-Kでなければなりません。

(ⅱ).S_T≦Kのとき

 (ⅰ)のときと証明の手順はほとんど変わりません。仮定より

C_T-P_T>S_T-K  ですが、今度はコールオプションの価格C_Tが0となります(誰も市場価格S_Tよりも高い価格Kで買いたいとは思わないので当然ですね)。したがって(1)式は

-P_T>S_T-K  と書き直せます。両辺に-1をかけて

P_T>K-S_T となります。もうお分かりでしょう、今回はプットオプション(売る権利)を大量に書いて売ります(つまり大量の買う義務を負います)。先ほどと同様にプットオプションの購入者はK(>S_T)で権利を必ず行使するため、彼らの株を価格Kで買い取り、それらを価格S_Tで市場に売ります。この時の収支もやはり、

[収入]-[支出]=C_T+S_T-K>0 となり裁定取引が可能となります。したがって(1)式はありえないことになります。

 (2)式が成立しえないことも全く同様に示せます。

したがってρ=0のときは

 C_t-P_t=S_t-  \frac{K}{(1+ρ)^(T-t)}

すなわち、

 C_t-P_t=S_t-K

が成立します。

3.ρ≠0のときの証明

 今まで見てきた証明はリスクフリーレートρ=0のやや簡略化された証明でした。今度はρ>0(一定)のときのコールプットパリティ(プットコールパリティ)についてみていきます。示したい式は

 C_t-P_t=S_t-  \frac{K}{(1+ρ)^(T-t)}です。

左辺:C_t-P_tは明らかに時点tでのコールオプションプットオプションの価格差です。

右辺:S_t-  \frac{K}{(1+ρ)^(T-t)}
こちらの理解は少し厄介ですが、時点tでの株価と、時点Tで負債額Kとなるような負債の時点tでの負債額の和です(負債は時点tでは無リスク利子率で割り引かれています)。

 (ⅰ)t=Tのとき、

 C_t-P_t=S_t-  \frac{K}{(1+ρ)^(T-t)}

(1+ρ)^(t-T)=1なのでρ=0のときの証明から明らかに成立します。

 (ⅱ)ある時点t(0≦t<T)において等号が不成立のとき

 例えば C_t-P_t>S_t-  \frac{K}{(1+ρ)^(T-t)}とします。

このとき下のグラフのような状況となります。青線Aが[左辺]: C_t-P_tを表し、赤線Bが[右辺]:S_t-  \frac{K}{(1+ρ)^(T-t)}を表します。また、時点t付近以外では常に C_t-P_t=S_t-  \frac{K}{(1+ρ)^(T-t)}なので青線Aと赤線Bが重なります。

 

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このとき、裁定取引が可能となることを示します。まず時点tで C_t-P_t(青線A)を大量に空売りし、S_t-  \frac{K}{(1+ρ)^(T-t)}(赤線B)を大量に買います( C_t-P_t>S_t-  \frac{K}{(1+ρ)^(T-t)}なので売った量よりも買える量が多いことがポイントです!)。(ⅰ)から時点Tにおいては必ずC_t-P_t=S_t-  \frac{K}{(1+ρ)^(T-t)}ですから持っているS_t-  \frac{K}{(1+ρ)^(T-t)}をすべて売り、空売りしていた C_t-P_tを買い戻します。このとき空売りした量より、買った量のほうが多いので必ずおつりが来ます。これは無資本・無リスクで利益を上げることができる裁定取引にほかなりませんから矛盾です。すこしややこしくなったので数値例で詳しく説明します。初期資産を0とします。上のグラフでは時点tにおいて C_t-P_t(青線A)の価値が6、S_t-  \frac{K}{(1+ρ)^(T-t)}(赤線B)の価値が4なので C_t-P_tを100単位空売りし、現金600(=6×100)が手に入れ、その現金をすべて使って価値が4のS_t-  \frac{K}{(1+ρ)^(T-t)}を150単位買います。時点Tになると所持している価値10のS_t-  \frac{K}{(1+ρ)^(T-t)}を150単位をすべて売り(10×150の現金が手に入ります)、空売りしていた価値10の C_t-P_tを100単位すべて買い戻して(10×100支払います)ポジションを解消します。この時最終的に残る資産は1500-1000=500で500残ります。このようにして初期資産0から資産を生み出す裁定取引が可能となるため、

 C_t-P_t>S_t- \frac{K}{(1+ρ)^(T-t)} はありえないこととなります。

 不等号が反対向きの時も売買を逆にすることで裁定取引が可能となってしまうため不適です。したがって

0≦t<Tを満たすすべてのtにおいて

  C_t-P_t=S_t-  \frac{K}{(1+ρ)^(T-t)}

となります。

 

(ⅰ)、(ⅱ)を合わせて0≦t≦Tのとき、

 C_t-P_t=S_t- \frac{K}{(1+ρ)^(T-t)} が成立します。

これが示したいコールプットパリティ(プットコールパリティ)の式でした。